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民営化後、初の赤字となった日本郵政。その原因は何だ?

日本郵政は4月25日、2017年度3月期の最終損益において通期で400億円の赤字になる見通しだと発表しました。2007年の郵政民営化以降、赤字となるのは初で、海外進出で4003億円の損失を計上したことが影響したと見られます。

 

日本郵政の長門正貢社長は25日に開かれた記者会見で「負の遺産を断つ」と語り、買収した海外会社の企業価値を見誤ったことを認めました。今後は事業の立て直しを図るとしていますが、株式の売却益は東日本大震災の復興財源に充てることになっているため、見通しは立っていません。

 

東芝の海外事業失敗による巨額損失が記憶に新しいだけに、日本の大企業は大丈夫かと不安の声が聞かれます。果たして日本郵政の今後はどうなるのでしょうか?

 

 

 

目次

  1. 1 郵政民営化の過程をおさらい
  2. 1-1 日本郵政グループが成立するまで
  3. 1-2 日本郵政の業務内容
  4. 2 本郵政の海外進出
  5. 2-1 日本郵政が目論んだアジア展開
  6. 2-2 トール、アジア事業の不振で大量解雇
  7. 3 真価が問われる郵便事業
  8. 3-1 見通しが甘かったと陳謝
  9. 3-2 復興事業に影響が及ぶとの指摘も

 

1 郵政民営化の過程をおさらい

2007年に民営化されてから初めて赤字となってしまった日本郵政。
そもそも郵政民営化は、赤字体質だった郵政事業を改善しようと、当時の小泉純一郎首相が内閣の肝いりの政策として掲げた行政改革でした。2005年、小泉内閣は郵政公社の民営化を盛り込んだ郵政民営化法を国会に提出、野党からは郵便サービスの質が低下するなど激しい反対にあい、自民党内からも反対意見が続出しました。

 

そこで小泉総理は郵政民営化の賛否を国民に問うため、衆議院を解散。民営化に反対する議員、役人、マスメディアを“抵抗勢力”と表現し、第44回衆議院議員総選挙に打って出ました。結果、小泉氏率いる自民党は3分の2以上の議席を確保するなどして圧勝しました。

 

小泉

(画像参照:日本経済新聞 戦後70年政党の栄枯盛衰)

 

法案成立に必要な議員数が整ったことで、翌月、郵政民営化法は賛成多数で成立することとなりました。また、郵政選挙で小泉首相が擁立した新人議員は「小泉チルドレン※」とマスメディアから呼ばれ、小池百合子東京都知事や自民党の片山さつき衆議院議員らもその一人です。

 

※ 小泉チルドレンは、「郵政選挙」で圧勝した自民党の当選者296人のうち、新顔となった83人のこと。その1人の猪口邦子氏は少子化・男女共同参画担当相(当時)にばってきされた。しかし、2006年12月に野田聖子氏ら11人が自民党に復党。「刺客」の比例復活当選組と復党組が重なる小選挙区の公認候補は調整の結果、復党組に決まった例が多く、処遇が決まっていない議員もいる。(参照:朝日新聞デジタル)

 

 

1-1 日本郵政グループが成立するまで

郵政民営化法の成立とともに、郵政事業を担当していた日本郵政公社は2007年に解散。事業は日本郵政株式会社に引き継がれました。
持ち株会社である日本郵政は、郵便事業株式会社、郵便局株式会社、郵便貯金銀行(現ゆうちょ銀行)、郵便保険会社(現かんぽ生命保険)からなっていました。

 

・5社体制時の郵政グループ概要図

5社体制

(参照:日本郵政

 

郵便事業株式会社は2012年の郵政民営化法の一部改正で、郵便局株式会社に吸収合併され、日本郵便株式会社となりました。そして、「日本郵便株式会社」「株式会社ゆうちょ銀行」「株式会社かんぽ生命保険」「日本郵政株式会社」の4社からなる現在の日本郵政グループが誕生しました。

 

・改正後(現在)の4社体制

改正後

(参照:日本郵政)

 

新体制では、貯金、保険の基本的なサービスを郵便局で一体的に利用できる仕組みが確保されました。株式会社ゆうちょ銀行と株式会社かんぽ生命保険の株式は、その全部を処分することを目指し、両社の経営状況、ユニバーサルサービス確保の責務の履行への影響を勘案しつつ、できる限り早期に処分することとされています。

 

・現在の日本郵政グループ概要

 

郵政グループ

(参照:日本郵政

 

 

1-2 日本郵政の業務内容

郵政グループは、郵便・物流事業を担当する日本郵便、金融サービス・商品を提供するゆうちょ銀行、保険サービス・商品を担当するかんぽ生命に分けることができます。

 

・日本郵便の担当業務

日本郵便 郵便·物流事業 全国一律の料金による郵便サービス。国内郵便に加え、国際郵便(通常・小包・EMS(国際スピード郵便:Express Mail Service))など
国際物流事業 豪州物流企業トール社の全株式を取得したことにより、トール社を介して、オセアニアおよびアジアにおけるエクスプレス物流、オーストラリアおよびニュージーランド国内における貨物輸送、アジアからの輸出を中心としたフルラインでの国際貨物輸送ならびにアジア・太平洋地域における3PLプロバイダーとしての輸送・倉庫管理などのサービスを行う
ゆうちょ銀行 貯金業務、貸出業務、有価証券投資業務、内国為替業務、外国為替業務など 貯金業務では振替貯金、通常貯金、通常貯蓄貯金、定期貯金、定額貯金、別段貯金などを取り扱う。
貸出業務では証書貸付および当座貸越を取り扱う。有価証券投資業務では貯金の支払い準備および資金運用のため、国債、地方債、社債、その他の証券に投資している
かんぽ生命 保険商品·各種サービス(学資·養老·終身·定期保険、入院·災害特約など) 保険商品の販売、保険料の収納・保険金の支払いなどのサービスを提供。また、中小企業を中心とする法人・職域マーケットを対象とした保険商品の販売、保険料の収納・保険金の支払いなどのサービスを提供

 

 

2 日本郵政の海外進出

日本郵政は、2015年5月、豪物流大手のトール・ホールディングスを買収したことを発表しました。買収総額は6170億円(当時)で、トールを足がかりにアジア太平洋地域での物流事業の展開を計画します。しかし、この巨額買収が、のちの郵政民営化後初となる赤字計上の引き金となってしまいました。

 

 

2-1 日本郵政が目論んだアジア展開

当時の日本郵政のプレスリリースによれば、日本郵便は、国内事業の強化と同時に、成長著しいアジア市場への展開を中心に、国際物流事業を手掛ける総合物流企業として成長していくことを目指していました。

 

2014年には、仏企業のジオポストと香港企業のレントングループと業務提携を締結し、国際宅配便サービスを開始します。成長著しいアジアでの物流を牽引すると同時に、さらならグローバル展開をするため、アジア含む55カ国1200拠点で事業展開している豪トールの株式を全て取得し、完全子会社化しました。

 

当時の西室泰三社長は「(トールは)事業を相互に補完できる最高のパートナーである」と語り、日本郵便の今後の発展に必要不可欠との認識を示していました。

 

しかし、この巨額の買収劇を日本の有識者たちは疑問視します。
海外事業でほとんど成果を上げた経験がない日本郵政がうまくコントロールできるのかと批判的な意見も少なくありませんでした。
2015年2月24日付の日経ビジネスオンラインの記事は

 

「トールはオーストラリアでは強く、アジアでも東南アジアにはシェアを持っているといわれるが、北半球には大きな足がかりはない。日本でも中堅物流会社を傘下に収めているものの、まだこれからといったところ。その一方で、規模の割に収益力は低く、リストラも図っている可能性がある」(参照:日経ビジネスオンライン

 

と述べ、トールには収益力向上のため、事業に手を入れる必要があると見られるが、日本側には国内にある自社の物流でシナジー(相乗効果)を利かせるほどの力は足りないと結論づけていました。

 

 

2-2 トール、アジア事業の不振で大量解雇

Satellite2

(▲豪トール・ホールディングスの運輸トラック / 出典:SUSTAINABLE RACE)

 

悪い予感ほど的中するとはよく言ったもので、トールが抱える不安材料が現実になります。

 

今年2月、トール・ホールディングスは6月までに最大で2500人の労働者を解雇する予定であることが明らかになりました。豪地元紙は、トールは、日本郵便が買収の理由として挙げたアジア事業が不振で、1月から変わった新経営陣の間からは、アジア地域からの撤退の可能性もささやかれていると報じました。(参照:NNN ASIA

 

 

3 真価が問われる郵便事業

豪トールによる4003億円の巨額損失により、16年度3月期の最終損益で400億円の赤字に転落してしまった日本郵政。不振が続く郵便事業の真価が問われています。

 

 

3-1 見通しが甘かったと陳謝

日本郵政は、企業のブランド価値を示す「のれん※」を20年かけて償却する予定でしたが、一括償却する方針に転換。長門正貢社長は25日の記者会見で、日本郵政全役員の報酬を最大30%カットすると語り、「見通しが甘かった」と陳謝しました。また、今年度中に1700人を超す従業員を削減する予定であることも明らかにしました。

 

 

3-2 復興事業に影響が及ぶとの指摘も

最終損益の赤字転落は、復興事業にも影響を及ぼす可能性が高まっています。

 

日本郵政の売却資金は、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」において、東日本大震災の復興財源に充てることになっています。そのため、早期に上場し、できる限り高い価格で売却されることが求められていました。

 

しかし、この度の赤字転落により、復興事業にも影響が出てくる可能性も指摘されており、不調が続く郵便事業の早急な立て直しが期待されます。

 

※ のれんとは、企業の合併や買収、営業の譲り受けの時に限って資産に計上されるもので、企業の資産の中の「のれん(会社法施行前に営業権と呼ばれていた項目)」のことをいう。これは、企業を買収する際の買収価格と時価で評価した相手企業の純資産額との差額であり、企業のブランド力や技術力、顧客リストや顧客との関係、人材など決算書には計上されない企業の力量を示す。(参照:金融情報サイトiFinance「のれん代」)

 

 


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