世界銀行グループは7月、ドイツで開催されたG20※財務大臣・中央銀行総裁会議にて、女性起業家や途上国の女性を支援するため、10億ドル（約1120億円）以上を拠出した新たなファシリティ「女性起業家支援イニシアティブ（We-Fi）」を設立すると発表しました。女性が起業や事業を拡大してするのに必要な、金融、市場、ネットワークへアクセスする機会を増やすのが狙いです。
構想を提案した米国のトランプ大統領は「この新たなファシリティは、世界の女性の経済発展に大きな影響を与えるだろう。女性起業家が直面する独特の障壁に対処しながら、起業する機会を増やし経済成長を促進する」と述べました。
世界銀行によれば、世界中の企業のうち女性が所有する企業は3割ほどとされます。
今後の世界経済の発展において重要な役割を果たすとされている女性の起業。果たして、1100億円を超える世界銀行の新たなファシリティは、女性主導の起業に何をもたらすのでしょうか。
目次
1 女性起業家支援イニシアティブ（We-Fi）の概要
共同声明から「あらゆる形態の保護主義に対抗する」との記述が消え、トランプ米政権の保護主義的な姿勢を取り込む形となった今年のG20財務省会議。米国が主張する、「公正」で均衡ある自由貿易が色濃く反映されるなど、今後のG 20は4月の財務相会議、7月の首脳会議で各国がどこまで協調できるかが注目されています。
このほか、G20では、世界銀行グループにより女性の起業家を支援する新たなファシリティの設立が発表されました。
世銀によると、女性起業家は、世界人口の4割を占める貧困層の雇用創出や経済成長にとって重要な役割を果たすとされています。
新たに創設された「女性起業家支援イニシアティブ（We-Fi）」は、オーストラリア、カナダ、中国、デンマーク、ドイツ、日本、オランダ、ノルウェー、サウジアラビア、韓国、アラブ首長国連邦、英国、米国などG20カ国の強力な支援を受け、承認を得ることができました。
国際金融公社（IFC）による「女性起業機会ファシリティ（Women Entrepreneurs Opportunity Facility）」のモデルを参考に、国際金融機関などと協力して途上国の女性や女性が経営する中小企業（SMEs）を支援するため、10億ドル（1120億円）以上の資金調達を目的とします。
1-1 女性の起業精神をはばむものたち
世銀によれば、女性が所有する企業は世界全体でも30％程度とされています。しかし、女性が所有する企業のうち7割が金融機関との取引を停止されているか、適切な融資を提供されていません。そのため女性所有の中小企業は全体で年間3000億ドル（約33兆円）の資金不足に陥っています。
世銀は、こういったネットワークや知識の欠如が、女性の起業精神の制約につながっているとコメントします。女性の起業家は資金調達やビジネスの発展において、資本や技術へのアクセスのしづらさなどを含めた数多くの課題に直面しているとされます。
1-2 収益性の高い業種での起業を増やす
また、世銀は、女性が起業する業種は、利益や成長の見込みが比較的少ない小売業やサービス業に集中する傾向にあり、建設業や電子機器産業、ソフトウェア業など収益性の高い産業はめったにないと指摘しました。
一般的に男性は女性よりも多くの情報やビジネスチャンスを持ち、社会的なコネクションを所有しているとされます。
We-Fiは金融仲介ファンド（FIF）として設立され、ビジネス機会に対するアクセスの改善をおこない、技術支援やメンターシップの機会を増やすことで、女性が起業しやすい環境を構築します。
2 女性の労働参加率の引き上げも期待
114カ国の労働力統計調査では、労働力全体に占める女性の労働力のシェアは約45.4％であることが明らかとなりました。We-Fiには世界の女性労働参加率を高める効果も期待が寄せられています。
世界銀行のキム総裁は、「女性起業家支援イニシアティブ（We-Fi）」の設立について、
「国際社会がこれほど短期間に、新たなイニシアティブのための資金を動員できたことは注目に値する。しかも、当初の目標を1億ドル近く上回る支援が表明された。これは、女性の経済的エンパワーメント改善の重要性を示すだけでなく、女性による起業や事業拡大に対する我々の取組みの拡大を可能にするものだ。本ファシリティ、またより広義に女性の起業という重要なテーマを支持されたトランプ大統領、メルケル首相、そしてイバンカ・トランプ氏に感謝の意を表したい」（THE WORLD BANK）
と述べました。
（世界銀行のジム・ヨン・キム総裁 / 出展：WallpapersVision.com)
※G20（Group of 20）は、G7（米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、日本）に、アルゼンチン、メキシコ、ブラジル、オーストラリア、中国、インド、インドネシア、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合（EU）・欧州中央銀行を加えた20カ国・地域のこと。（参照：SMAM）
